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30のお題・)6寝坊
2010.08.30 (Mon) | Category : 30のお題
「・・・あー・・・」
マズッた、これは寝過ごしたな、そう思ったのは一瞬で、これは仕方ないかと考え直す。
昨日で一仕事を終えた主力パーティーメンバーの今日は休息日で、甲板メンバーからも免除されているから、ただの航海を予定されているテッドに問題はない。
それが寝坊の理由ではないのだけれども。
ガチャリと開けた自身の部屋の扉を出れば、詳細な時間は解らないが、太陽の位置が南寄りに傾き始めたあたりだから、まだおはようと言えるだろう。
普段、何があっても身体がそう慣らされてしまったのか、朝の早い時間に眼が覚めるテッドにとって、これは珍しいことだ。
まぁ昨日はな、と考えて、けれども毎日正直ウザイ勢いでしつこい襲撃すらもなかった、と思い直して、その不自然さに首を傾げる。そしてそこで、更なる不自然さに気がついた。
船内がやけに静かだ。
あれほどの人数を収容し、真夜中であっても誰かしらに遭遇する、常に賑やかな巨大船が。
「・・・・・・」
人の気配が一切感じられない、物音も全くしない、照明はごく僅かに点在する小さな松明のみ、という霧の船とは全然違うが、ある種の不気味な静けさだ。
階段を上りながら、テッドはまさかな、と思う。ぎゅっと右手を握り締めて、そんな訳はないと。
ゆっくりと歩き辿り着いた先の、一際大きな扉に指先を添える。
呼吸を整えてから覚悟を決めて腕に圧力をかけた。
そしてそこには、まさかと思った光景があったのである。
「助かったよ、テッドが無事で」
「僕一人残るのはツライなって思ってたんだ」
「ほかにも何人か動ける人いたんだけど、ちょっとね、酷すぎるから」
いてくれて良かった、と心底ホッとした顔を見せて話すのは、この巨大船のリーダー、ラズロだ。ガタガタと、倒れているイスやらテーブルやらを起こしながら、少し疲れたような笑みを見せる。
「あとは、ラグジーとかノアとか、子供たちばっかりで」
その子達に、これの片付けさせるのは酷じゃない、と口元には笑みを浮かべたまま、けれど伏し目がちにポツリと言って視線を落とした。
サロンの床には割られたコップや瓶、皿に加え、真っ赤に染まったテーブルクロスや、誰かの剣までもが刺さっていて、異臭すら立ち込めている。
確かに酷い有様だ。
「・・・お前は大丈夫そうだな」
「うん、僕は見てのとおり。全然支障はないよ」
向き直ってニッコリと笑うその姿を見る限り、強がりではなさそうだ。
けれど、散々な状態のサロンを再度見渡して、困ったような表情を笑みに乗せる。
「明日には次の島に到着する予定だからって、みんな際限なくなっちゃったもんね。ほら、補充できるし」
お酒。
要はこうだ。
一段落ついた上に、久しぶりの上陸が目の前と言うことで、宴会が始まったのだ。
はじめはそれほど多くない宴会人数だったものの、基本的に大騒ぎするのが好きな連中ばかり乗っているこの船は、いつの間にか乗員のほとんどを巻き込む大宴会に発展した。
軍主であるラズロやテッドを含め、軍の要のリノ王、キカ、騎士団など、子供たちを除くほとんど参加の、文字通り大宴会へ。
それは酒が底を尽きるまで続けられ、時間にして朝まで。太陽の姿が全部海から出るまで行われた。
大概止めに入る良識のある人間は早々に沈められてしまい、手のつけられない状態になった結果がこれだ。
一体どんな、何に襲われたらこうなるんだと言われてしまいそうなほどの。
ちなみに、真っ赤に染まったテーブルクロスのシミは、ワインである。
何とか動けるキカは自力で船に戻り、同じくどうにかなりそうなシグルドには、ハーヴェイやダリオやあの辺のメンバーを引き取ってもらい、エレノアには自分の周りの女の子たちを無理矢理起こして連れて行ってもらった。
被害のなかった子供たちには、当番ではないのだが、使用したタオルやクロス、剥げる範囲で引っ剥がした彼らの服の洗濯を頼み、ラズロ自身は残りのメンバーを部屋に届けたらしい。
「・・・そか」
お疲れ、と本心から言いながらも、テッドは隠すことなくげんなりとした表情を見せる。
「でもテッド強いね。結構遅くまでいたのに、二日酔いとかもなし?」
「俺はそのときだけで、後には残らない」
話の内容から、今現在まともに動けるのは軍主であるラズロと子供たち、それに自分くらいなんだな、と理解して、大きな溜息をついてから片付けの手伝いに入った。
ダメな大人は、ほぼ全員が寝坊だ。どうしようもない。
どおりで毎朝の恒例行事がなかったわけだ。
しかし。
「なぁ、ラズロ」
「ん?」
軍主の言うとおり、テッドも確かに空が白み始めるくらいまでは座らされていた。どうにか振り切って自室に逃げ込むことに成功したけれども。
「・・・お前、俺が戻るときも普通にいたよな」
そう、普通に。
手に持ったグラスの中の酒を普通に飲みながら。
「うん、いたね。って言うか最後までいたよ」
むしろ最後の一人、と何の気負いもなく言い放つ。
それはお前。
最後とか寝坊とか寝坊じゃないとかの問題じゃなく、寝てないだろう。
「僕ね、お酒って胃の中で瞬間的に分解されて、アルコール分すぐ飛ぶんだよ。だから飲み続けてるときは酔ってるけど、飲むの止めれば素面に戻る」
「・・・・・・・」
テッドの言わんとしていることに気付いたのか、特異な体質をペロリと晒し、だからただの徹夜みたいなものだよ、と続ける。
「・・・人に強いとか言って感心するより凄いだろうが」
「でもほら、海の漢って称される船乗りよりも強いのは間違いないでしょ」
「俺はそれなりに回数こなしてるからだ」
そういうもの? と聞かれたから、年重ねりゃ子供の頃美味くなかったもんが美味く感じるだろ、と返してやれば、ああそうかも、と納得された。
それが今の答えになるのかならないのか微妙なのは、この際置いておく。
「まぁそういうわけで、船を動かす最低人数は一応いるんだけど、下手に動いてクールークに見つかっても応戦できないし、碇下ろして停泊中だから」
「ああ、解った」
2人でも充分応戦できるだろうが、目の前の惨劇処理を考えると、余計なことはごめん被りたい。ぶっちゃけ面倒だ。
「お前、次は終わり見極めろよ」
「もちろんそうする」
まさか誰も起きてこれないとは思わなかったんだよね、と小さく口にしてから作業を再開した。
結局、太陽が南の頂点を通り過ぎる頃、ようやく何人かがヨロヨロしながらも復活したけれども、手伝いを頼める様子ではなく、そもそも小間使いスキルを最大限に発揮したラズロと、一人生活を極めつつあるテッドならば、それだけの時間があれば粗方片付いてしまう訳で。
他にもあれば、と、とても良い子の申し出をしてくれた子供たちと一緒に、これみよがしに一日中甲板で洗濯をしてやった。
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