300歳ブログ
ある夏の日。
2010.08.27 (Fri) | Category : 幕間
「・・・何してんの」
「お、良いところに。ちょっと切り裂き頼む」
「・・・あんたの頭を?」
「違ぇよ!」
湖上の本拠地は立地柄、夏でもそこまで猛暑にはならない。
元々赤月の大地は温帯地域だ。
それに、遮られるものもなく風が吹きぬけ、湖の水の冷気を含んで涼やかに過ぎる。
雨期の頃は湿気を孕んだ、ジメジメとした風が不快で厄介だが、他の時期は季節の空気を運び届け、時に厳しい自然を和らげてくれたりもする、それなりに良い物件だ。
移動手段は船のみという手間はあれど、戦争をしているという状況下なら、それも強みにすることが出来る。
とは言え、夏は暑いことに変わりはない。
石版前の番人の異名をつけられているルックだが、常に定位置というわけでもなく、むしろフラリと気ままに出歩いている時のほうが多い。
暇だからという理由で。
今日も今日とて時間つぶしに本拠地内散策をしていたら、船着場の方で魔力を感じて足を向けた。
「だから、何してんのって聞いてんの」
行ってみれば、感じた魔力の持ち主がひょいと顔を出して、ルックの質問もよそに開口一番ああ言ったから、そう返したまでだ。つるりと口から滑り出た言葉なだけで、本当にそうしようと思ったわけではない。
「・・・さっきの暴言はスルーか・・・氷だよ、氷。暑さで茹だってるっつーから」
「ああ」
恨みがましい顔で小さくツッコミを入れたテッドだが、どうせそれも流されると解っているから深追いはしない。
こういったやり取りはすでに、ある種の挨拶のようになっていた。
夏季真っ盛りの現在、水辺にあり岩作りの本拠地は街よりは涼しいだろうが、常時そこで生活している人間にとっては、慣れてしまうと涼しくもなくなるものだ。
慣れか根性か術士のなせる業なのか、ルックを筆頭にテッドやジュッポ、アイリーンやマッシュなどは、それでも表情や服装にさほど乱れは見られないが、基本重装備の兵士やパーン、フー・スー・ルーといった、見るからに熱そうな人間は、やはり本人も暑いようで。
メグやテンプルトン、シルビナ辺りの女子供は、タイ・ホーやヤム・クーの舟で少し沖に出て、湖で泳いでいる始末だ。
「だから氷でも作れば少しマシになるんじゃねーかと」
思ったから作ってみた、と言う通り、存在を主張するそれは製作者であるテッドの身長より少し大きめで、先ほどルックが感じた魔力は、このせいだと知れた。
「経緯は解ったよ。でも僕が手伝う義理はないよね」
つまりはその氷の塊を、ルックの切り裂きで小さくしてくれ、ということだろう。面倒、と一蹴してルックはくるりと背中を見せた。が。
「分け前は弾むぜ」
実に楽しそうな調子で、さっきよりも軽く声をかけてくる。
振り返れば口調を裏切らない顔で、ニヤリと笑っているテッドが視界に入った。
「・・・何の話?」
訝しんで会話を繋げれば、笑ったまま腕を組んだテッドが口を開く。
「俺が戦争でもないのにただで力を使うわけないだろ」
「・・・それって」
「カキ氷一杯200ポッチだ」
しかも元手はシロップ代だけだからボロ儲け。
テッドは親指と人差し指で丸を作って金を表すポーズをとると、ニコ! といい笑顔を見せる。
「・・・商魂逞しいね・・・でもそれ、ずっと切り裂き使ってなきゃいけない分、僕のほうが凄い労力じゃない?」
「ああ、お前は一回だけ使ってくれれば良い。そのときに力固定して、あとはお前の紋章の力の流れを変えて、俺の魔力使うから」
なにそれ。
どんな紋章論理。
どんだけ器用なの。
とか何とか、色んな思いが交差するけれど。
「・・・解った。いいよ。その代わり本当分け前弾んでよね」
「おう、任せとけー」
商魂逞しいのは、ルックとて同じだった。
そして。
世間のニーズに応えた結果と、ルックが店先に立つという珍しい光景も相俟り。
臨時開店の青空屋台は大盛況のうちに終了した。
あまりの大盛況ぶりに味を占めた二人が、度々同様の青空屋台を開店させ、夏の終わりにそれを聞きつけた軍主と軍師に、もちろん場所代は上げるんだろ、と言われたけれども。
