300歳ブログ
30のお題・)13檻
2010.08.31 (Tue) | Category : 30のお題
やりすぎじゃね? と、現状を改めて思う。
確かに自分は逃げていた。
逃げていたけれども、決してこんなことになるような罪ではなかったはずだ。
この相手に対しては。
「どうよ? いい加減諦めようぜ?」
「ほかに言うことあんだろ、お前」
とりあえずなんでこーなった。
こう、と言わしめる現状。
何故か今、檻の中である。
「俺じゃねぇよ、お前が言うことあるだろ?」
「それこそ俺じゃねぇよ! お前こそ諦めろっつの!」
「だって俺、お前欲しいもん」
ああもう、本当何このガキ大将がそのまま大きくなりましたみたいな、図体デカイだけの大人! 早く話の解るやつ来い!
意志の疎通を放棄してがっくりと項垂れていると、奥の方からバタバタと慌てたような足音が近づいてきた。それと同時に嘆きなのか怒りなのか呆れなのか、とても複雑な声色も。
「何度言ったら解るんだあいつは・・・! 他人様に迷惑をかけるなといつも・・・どうしてそう突拍子もないことをいきなり勝手にするんだ! 単独行動は慎めとあれほど言っただろう!」
気持ちが収めきれないのか、言うべき相手が見える前から叫んでいるらしい。確実に進む先にいると解っているからだろう。
「お前が何かするたびに、謝る俺の身にもなってみろ!」
この段階でようやく道の角から声の主が現れる。後に何人かを従えて歩いてきた男は、言っている間に感情が決まったらしく、結局怒りの表情をしていた。
「よっ。お疲れ」
にもかかわらず、矛先を向けられているはずの相手は、檻の中の少年に視線を合わせるためにしゃがみこんだままの姿勢で、軽く片手をあげる動作つきで、全く効いていない挨拶を返して見せる。
両者がいい笑顔だった。
完全に逆の意味で。
ゴッ! と鈍い音が響いて、直後にゴロゴロと転げまわる音と、声にならない声が聞こえ、さもそんな一連のことはなかったかのように、後から登場した男が檻の正面に立つ。
「すまないな、うちのバカが大変申し訳ないことを」
不自然に言葉が途切れたのは、檻の中に入れられたのが誰だったかを理解したからだ。
「・・・君だったか」
「・・・・・ええ、俺です」
長く深い溜息をついて、そうかなるほどと言いながら片手で額を押さえた男と会うのは、これが初めてではない。
その男に思い切り振り下ろされた拳骨をくらい、未だ頭を押さえながら身悶えている、相手の青年にも。
「重ね重ね申し訳ないが、この檻の鍵はあいつが持っていてな。俺では君を出してやれないんだ」
すまないな、と苦笑する男に、力なくいいえと返す。
言われたとおり現状は変わることなく、けれど、何かしでかして檻に入れられたわけではないのは明白で、だからなのか何なのか、茶が振舞われていた。
つまりは場所が場所ながら、一応客人扱いだ。
檻の中にテーブルなんて気の利いたものはないから、地面に直接茶器を置いてだが。
(・・・シュールだ)
元凶である青年は、茶を置きに来た少し年上くらいの女性に耳を引っ張られて行き、ここにはいない。
その女性にも何度か顔を合わせていて、どうも青年は彼女に弱いらしく、今顔を突き合わせている男に、こってり絞られて来いと言われていたから、きっと今頃説教でもされているのだろう。
絞り切られてしまえば良いと思う。
「明日には鍵職人が来る。狭い思いをさせるが、我慢してくれ。入用があったら言ってくれて構わない」
ご丁寧にも静かなる湖の効力が檻にかけてあるそうで、内側からの紋章は相殺されてしまうとのことだ。天晴れな細工を施した檻である。
「・・・俺、何回断ればいいんですかね」
「うーん・・・そこはな、あいつしつこいんだよ。気に入った人間には、落ちるまでひたすら付きまとう」
それはあいつが飽きるか諦めるまで無理だということか。
遭遇するたび突進してくる青年を思い出して、そのたび同じやり取りを繰り返し、やりあったのももうとっくに二桁を越えている。この辺の地域に入ったのはまだ一年に満たないから、月に数回の頻度だ。
何だこの確率の高さ。
「ただ俺も、君の力は正直惜しいと思ってるんだ。仲間になってくれたら良いと」
「それは・・・すいませんけど」
この地に、今大きな流れが来ているのは知っていた。
数年前から徐々にゆっくりと練り上げられているそれは、ここ数ヶ月で時々うねりを伴うまでに成長した。恐らく、もうじき形を成す。
星も、動くかもしれない。
その中心が多分、ここだ。身を置き、力を貸してほしいと望まれている。
望まれすぎて、檻にまで入れての説得らしきものを試まれたようだけれども。
「・・・そうか、残念だ。気が向いたらいつでも来てくれ」
その言葉に返事もせず、頷くこともしないで、ただ笑って見せる。男もそれ以上はなく、苦笑して腰を上げた。
「食事は誰かに運ばせる。寛げないかもしれないが、ゆっくりしててくれ」
「よろしくお願いします」
半身を奥に向け首を回し、それだけ言って男は離れていった。
そして真夜中。
琥珀色の瞳を煌かせて、檻の中の少年が音も気配もなく動く。
檻の鍵部分に指先を沿え、そこだけに力を籠めた。
ぱちり、と、響いた小さな音は誰にも咎められることはなかった。
「・・・マジか」
目の前の状態に、呆然とした表情を隠すことなく口にする。それは折りしも、そこにいる誰もの心境を代弁した台詞となった。
夜、消灯を告げたときは何事もなく、二言三言の会話もした。
特に変わった様子も見られなかったし、困ったような表情を見せてはいたけれども、慣れたように毛布で作られた簡易寝具に潜り込んでいたのに。
「逃げられた、か・・・」
「・・・・・紋章の力は、無効化されてんだぞ」
事実、他の誰が檻内に入っても、紋章は一度たりとて発動しなかった。
それを。
「鍵を焼ききったようだな・・・」
熱を加え溶けるのを待つのではなく、最初から圧倒的な熱量をかけて切ったのだろう。断面は、まるで刃物で切られたように鋭く、ほとんど溶けた様子が見られない。
風の紋章ではないと判断したのは、その僅かに溶けた部分があったから。けれど切断部分をくっつけたら、問題なくぴたりと合わさる程度だ。
「・・・すっげぇ」
その分析結果に、楽しそうな表情で青年が呟いた。
隣に立っていた男が呆れたような微妙な顔で眉を寄せる。まるで、あ、始まった、とでも言いそうな。
「だってあいつ、普通の戦闘だって強いんだぜ! なのに紋章術もこんなって!」
仲間にするしかねーじゃん!
両の手で握り拳を作って声高に叫んだ内容は、間違いなく檻に入れられていた少年にとって、なんでそうなるんだと反発する以外の何でもないものだろう。
可哀想だとは思うが、男が青年に言って解るものなら、とっくの昔にこんな関係は終わっている。
だからただ、青年が少年に何かするたび、またかという思いと申し訳ないという思いと、でも青年の気持ちも解るのだという思いと、ないまぜになって、考えてしまうのだ。
最終的には、いろんな思いを含めての、申し訳ない、に落ち着くのが常だけれども。
「よおーっし! あいつの捜索と勧誘は以後も続行! 見つけ次第俺に知らせろよ!」
作ったままの握り拳を振り上げ青年が号を飛ばせば、続くようにおおーっと声が上がる。
青年の言う戦闘時の強さと、魔力の強さもそうだが、拠点であるこの場所にいる誰一人にすら気付かれず抜け出せるという、高い隠密機動性も。
破天荒さに迷惑している少年に、青年を抑えられなくて申し訳ないと思いつつ、拒否しているところ申し訳ないが、やっぱり仲間に欲しいな、と男も改めて思っていた。
これは、太陽暦415年頃の、とある地方の一団内での出来事。
