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300歳ブログ

300歳のためのブログだよ!

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2026.04.05 (Sun) Category : 

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30のお題・)12逃亡

2012.03.03 (Sat) Category : 30のお題


二月中には上げらんなかったけど一段落! 心置きなくちょっと潜らせてもらおう!(苦笑)
というわけで、オフライン原稿に勤しみます! 一月くらいしたら戻ります! 多分!

当初の予定通り三つタイトルで終わりました。
いつにも増して設定やら何やらブッ飛んでましたが、見てくださってありがとうございます、お疲れさまでした!
見切り発車だったけど、目的地見つかって良かった! ちゃんと止まれてるか不安だけど!(え)

公式ガン無視シリーズ。またの名を見切り発車シリーズ。(わぁ)
29)通過地点  10)ソウルイーター の続きです。
え? 霧の船? 時間の流れ関係ないってとこでしたよね?
じゃあ成長しないんじゃないですか? 他のとこで年取ったんでしょ?

という、飽きもせず過去捏造です。
もう好きにしろよ何か言う気も失せたわっていう、ツン全開の貴方は、顔文字君から先のデレ期へどうぞー!
やっぱり長いんで、気合入れてすいません!

拍手ありがとうございます、コメントもありがとうございます!
後でまとめてお返事させてください!


拍手[22回]








幼き闇王の花よ。
おんしはその右手の闇王に選ばれた、この世界で王に愛される唯一の待ち人じゃ。
王は決しておんしを裏切らぬ。
おんしも決して王を裏切るな。


 右手の違和感が強くなる。呼ばれている気がする。
 否。
 気がする、ではないだろう。きっと呼ばれているのだ。闇王が手を伸ばすのは、テッド唯一人なのだから。
 封印球によく似た、けれどレベルの遥かに違うそれに捕われてはいるものの、ソウルイーターを外側から見たのは初めてだった。属性も力の大きさも、降りかかる呪いすら、経験上何となくの理解をしていたけれど。
 こんなにも禍々しいものか。
(・・・・・これが、ソウルイーター)
 幼いころから気配はすぐ傍にあった。姿、のようなものを見たこともある。だがそれは現実味のない、ただのイメージのようなもので、苦しいほどの圧迫感を覚えるような存在ではなかった。
(これが、本来の、ソウルイーター)
 どろどろと昏い渦を湛える、底の見えない漆黒を見つめながら、自らに言い聞かせるように一区切りずつ落としていく。
 すべてを拒絶し、興味もないとばかりに僅かな反応も示さない。特別なのはテッドだけ。
 闇王が唯一つのテッドだけだ。
(・・・やっぱり重いよ、)
 シエラ、と紅の双眸を持つ色素の薄い少女の名を音もなく零し、頭を垂れて握り拳を作る。耳の奥に甲高い声のようなものを聴いて、一度大きく息を吐き出した。
 ゆっくりと顔を上げ、改めてその存在を視界に入れる。
 恐怖を拭うことはできないし、手にすることに躊躇もする。気を抜けば足元から震えそうにすら。
(でも)
 例えどんな何でも、取り戻すために来たんだ。

 緋色の真ん中、とぐろを背負った美丈夫が、室内の異質さを気にもしない軽やかな口調で話す。
「これ以上近寄らせてくれないのだよ。探らせもしない、発動もしない、ただじっとしているだけ」
 研究も進まない、困ったものだと続けたヒクサクは、相変わらず笑みを湛えたまま、ソウルイーターから少し距離を取って、見上げるだけに留まっていた。振り返って小首を傾げ、考えるように腕を組む。
「だが大人しくしているだけで、眠っているわけでもない」
 持ち込まれた当初は随分と困惑したものだ。宿主と引き離す際の騒動で、やりあった双方が瀕死にまで追い込まれ、どうにか確保に成功した後も、しばらく制御が効かなかったと聞いていたから。
 あまりの静けさに。
「『待っている』んだと気が付いたときは、さすがの私も、柄にもなく高揚したよ」
 ふとよぎった、寝物語に子供に聞かせるような幼い御伽噺。
 真なる水を発見し、他にも真なる五行があるのだろうと推測出来ても、確認できている紋章を含め二十七にはまだ足りない。歴史に現れていない紋章がいくつもある。
 そのうちの一つ。
 孤高の闇王。
 ああこれがと理解した瞬間、すとんと落ちてきた。
「真名は解らない。けれどこれが『闇の王』と呼ばれているもの、もとい、紋章で間違いない」
 理屈ではなく、到るのだ。唐突に。
 それはヒクサクだけではなくテッドにも覚えがあって、単に魔力が強いからなのか、紋章同士の何かがあるからなのかは定かではないのだが。
 今回テッドが目の前にあるにもかかわらず、『円』に気付けなかったのは、偏に油断と未熟さによる。継承してすぐならいざ知らず、手元にないとはいえ、既に一生を全うしていてもおかしくない年月を有していたのに。
 警鐘は鳴り止まない。
 認識を変える必要がある。
 綺麗に微笑む優男風のこれは、まぎれもない大陸の覇者。
「・・・何故、私にこれを」
 乾きかけていた口内を湿らせ、あごを引いて身構える気持ちで問う。気取られないようにするのが精一杯だ。
「知っての通りハルモニアは、というか私は、紋章を集めることを国策としていてね。もちろんこれも例外じゃない」
 ハルモニアと言えば紋章というのは、もはや常識を通り越して普通といっていい。
 どんな小さな子でも、ハルモニアは紋章国家、という程度は周知の事実。
「紋章が待つ『唯一』は、紋章が宿るに相応しい継承者だと考えていてね。いろんな者を連れてきたけれど、一切反応を示さない」
 真の紋章は一個体に一つしか宿せない。
 ヒクサクが円を宿している以上、いくら心血注いで求めたとしても、他の者に宛がうしかないのは致し方なかった。
「どうしたものかと思っていたら君が現れた。最初はいつも通り、適合するかどうか、それだけだったのだけれど」
 組んでいた腕を解き、瞳を細めて口角を上げる。
 テッドへとゆっくり、手のひらを上に向け差し出すように伸ばして。
「君なんだろう? 闇王の『唯一』は」
 図書館で見た姿、やり取りと知識、魔力。
 今までの誰よりも格が違うと思って招き入れてみれば、その度胸も内側の質も。そして何より、隣に立ったときにピタリとはまったような感覚が。
「『闇の花嫁君』」
 他のすべてを受容れない、自身を貫く紋章が選ぶに値する存在だと。
 誰が例えたのかは知らない。だが、確かに言いえて妙だとしか思えない。唯一人を見初め、継承という名目で永遠を縛る。
 それはまさに婚姻と同義。
 故の、花嫁。
「・・・どうして紋章を集める」
 確信を持って放たれた台詞に誤魔化しは無用だ。肯定も否定も。
 恐らくもう、自分の身元詐称もバレていると判断し、テッドが口調を変えた。危害を加える相手ではないかもしれないが、味方ではない、きっと。ならば礼節を気にしている場合ではない。
「紋章を集めているのは過程だよ。最終目的は別にある」
 微笑みは絶えることなく浮かべたまま。昨日と同じ顔だというのに、けれど昨日とはまるで違う。
 背後の緋色が半身を真紅に染め、うっそりと口元を引き上げた。
「私は神を殺してやりたくてね」
 よみがえる声。
 歪められた眉。
 漏れ出た激情。
 神、とは。
――― 限界だった、私たち人間には。
 神とは。
「・・・・・あんた・・・紋章を・・・っ」

 ドン、と派手な音が響くと同時に大地が揺れ、のんびりと囀っていた鳥たちが一斉に飛び立った。何事かと人々が振り仰ぎ、音のした方を確認する。
 ハルモニアが誇る白亜の宮殿の端に、一筋の白煙が上がっていた。

 けぶる視界に眉を寄せ、鬱陶しそうに左手で薙ぐ。すると床の一部が光を放ち、邪魔をしていた煙を吹き飛ばした。
「・・・ふむ」
 開けた室内にいるのは自分一人で、直前まで共にいたはずの少年の姿はない。
 ヒクサクが今使用したのは、札と同じ原理で床に施された紋章の簡易発動で、本来この宮殿は一部を除いたほとんどの場所で、紋章の使用制限が効いている。その上この紋章研究区画は別格で、不測の事態を考慮し、他の場所より何重も多く結界が曳かれているのだ。
 恐らく同じように、床の簡易紋章を利用したのだろうが。
「魔力調節も解読も本当に長けているね」
 床の紋様は実に巧妙に施されており、一見しただけでは何も気が付かないだろう。解ったとしても発動させるには、神経がすり減りそうなほど絶妙な魔力の加減が必要だ。
 そして確かにロックをしたはずの扉も開いている。
 一瞬でやってのけたそのレベルの高さに思わず感嘆した。
「明るい茶色の髪にヘーゼルの瞳、身長はこのくらいで年の頃は十三、四。薄い青の膝くらいまでのローブを着ている少年」
 爆発音に慌てて駆け付けた警備兵に淡々と特徴を伝え。
「決して殺すな。生け捕りにしろ。すぐに私も向かう」
 バタバタと走っていく兵たちが全員出ていくまで見送ってから、つるりと冷たい翡翠を後方上部へと向ける。
「花嫁強奪も面白そうだね?」
 瞳の強さをそのままに笑みを乗せれば、漆黒のとぐろが蠢いたように見えた。

 ガシャガシャ金属を擦らせて、いくつもの影が走って行く。宮殿の一部は一般に開かれているが、役割は他国の城と変わらない。警備兵も守護騎士も存在する。
 たった一度の異変は既に空に煙もなく、鳥たちも戻り変わりない。
 けれど常にはない人数の見回りが、事態は収束していないのだと物語っていた。

 人気の少ない通路を素早く横切ってテッドは駆ける。
 装備は宿に置いてきた。武器と言えるものは、常に腰に差している短剣といくつかのナイフくらいで、旅の最中であれば兼火種として使用している、火も雷の紋章も宿していない。
 水だけは左手に宿っているが、貴族の遊学を偽って入国する際、装備が整い過ぎているのはどうかと思って外したのが仇になった。
「ち、くしょ・・・!」
 空気が動いたと感じた直後、足元から突如魔力が膨れ上がり、咄嗟に転換を試みたものの反発反応が起こった。爆風を伴う暴発に乗じ、どうにか部屋を脱出してきたけれど。
 完璧に姿を捉えられている。この機会を逃せば次は確実にないだろう。強行でも、今、やるしかなかった。
「いたぞ、こっちだ!」
 建物の中は様々な仕掛けが施してあり、気配が読み取りにくい。壁に背を付けて向こう側を窺っていた、その反対側から声が上がる。
 目視で確認と同時に身を翻して角を曲がれば、今までテッドがいた場所の足元に、ボウガンの矢が刺さった。
(命令は生け捕りか・・・!)
 走りながら振り返って舌を打つ。紋章の発動にはテッドが必要不可欠だと理解しているのだ。
 けれど結局やり方は変わっていない。
 ソウルイーターを引き剥がされた時も、宿主など微塵も厭わない方法だった。町で過ごした数ヶ月のほとんどは、治療によるものだ。
 生け捕りとはいえ、生きてさえいれば、程度の認識だろう。事実、部屋で膨れた魔力の大きさは下位紋章の上位レベル、放たれた矢も刃が潰れていない。
「・・・ッ!」
 走りこんだ先、正面に数名の警備兵。テッドが気付いた数秒遅れで相手も気付く。瞬間、ガンと衝撃が頭を襲った。
 剣を抜こうとした警備兵は、いつの間にか握りしめられた短剣の柄に思いきり殴り飛ばされる。勢いのままテッドは後ろに傾いだ警備兵の身体に登り、頭上から斜め下へ、真後ろの警備兵に対し体重を乗せた踵を落とした。
 沈み込んだ姿勢で片足を軸に回転させれば、次の警備兵が足を払われる。
「なっ・・・!」
 一瞬の出来事過ぎてついていけない残りの兵がたたらを踏み、もつれた足は絡まって尻もちをついた。
「凍れ」
 全員が床に伏すと、声が。
 同時にパキンと、何かが軋む音が。
「う、わ・・・ぁああああぁああ!」
 澄んだ、冷え冷えとした空気が辺りを包み、急激に温度が下がる。即座に兵の甲冑に霜が降りて、触れた皮膚の水分が凍結し剥がれなくなった。
 気温は尚も下がり、空気中の水分が氷結する。
 対峙した警備兵全員が、水の紋章による氷に身体を取られて動けなくなった。
 そのまま背後から迫って来ていた兵に標準を合わせ、同じく紋章を発動させる。ヒュ、と再度空気が音を立てた。
「・・・!?」
 手応えはあった、発動もしている。けれど冷気が膝の位置以上にあがらない。
 それでも足止めには充分で、不審に思いながらもテッドは発動を止め、動かない兵士たちから踵を返す。目を移した方角に外の光が見えて、意識ごとそちらへ向けたとき。
 ザァッと前方に旋風が沸き起こった。
「このまま逃がすと思うかい?」
 声は後方から。
 もう耳に馴染んだそれは。
「・・・ヒクサク・・・」
 ブレーキをかけて止まり、振り返ったテッドが見たのは、警備兵ではなく、守護騎士を引き連れた神官長の姿。
「君だってこのまま逃げるつもりはないんだろう?」
 意味ありげな笑みを浮かべ、向けてきた右手の甲を左の人差し指で数回叩く。その仕草に眉を顰め、睨むような視線をヒクサクへと投げた。
 僅かな時間、探るように互いの瞳を見つめていたけれど。
「捕えろ」
 冷たい響きが通路に満ち、剣を構えた騎士が一斉に飛び出した。
「チッ・・・!」
 逃げるつもりはもちろんないし、相手も逃げるとは思っていないだろう。だが、大した武器も持っていない以上、逃げ回らなければならないのは必至であり、狭い通路は場所が悪い。
 その判断に素早く反転して、外へと真っ直ぐ走る。追いかける騎士も、その後に続くヒクサクもやがて神殿を抜け、宮殿の外れにある中庭に出た。
 陽の下で見るテッドは。
 輝きを弾くような稲穂の髪と。
 それとは逆に、煌めきを集約したようなアンバーの双眸を。
「・・・なるほど」
 光の体現だ。文字通り。
「ハッ!」
 意気込んで振りかぶられた剣を身体をずらして避け、切っ先から手甲、腕までの直線を伝い滑らせ、刃を返した短剣を振り抜いた。
 兜と剣がぶつかる鋭い音がこだまする。
 殺傷力のない力は遠慮なく、音の大きさに衝撃も比例した。ガシャンと一人の騎士が崩れ落ち、別の騎士が水平に薙ぐ剣を、テッドはしゃがむことで回避する。
 そして倒れ込んだ騎士に触れ、もう一方の手で、空振りした目の前の騎士の甲冑腹部に触れた。
 バチンと激しい音と僅かな火花、細い光る線が身体に纏わりつき、数度ひきつけを起こしたような動きのあと、二人目の騎士は沈黙する。
「・・・」
 何が起こったのか解らない騎士たちを後目に、一歩引いた場所で成り行きを見ていたヒクサクが、僅かに目を見開き、驚いた表情を見せた。
 宿していないはずの雷の効力。
(他者の紋章へも介入できるのか・・・これはますます)
 右手の『神』ごと。
 ついと腕を伸ばして、手のひらの先にテッドを捉える。ゆっくりと魔力を集中させて。
「―― 我が命に従いし二十七の厳粛なる円よ」
 紡ぐ。
 ぶわりとヒクサクを中心に展開したそれは、示した方向へ拡がり中庭全部を包み込んだ。
「!?」
 場が変わったことに気付いたテッドが、距離を取ろうと姿勢をただす。けれど。
 身体が重い。
 どういうことかとようやく動く顔を正面に移せば、沈黙した二人目の騎士が、倒れ込む寸前の不自然な位置で止まっていた。
「・・・え?」
 別の騎士は剣を抜く格好のまま、明らかに走るフォームのまま、両足が地から離れたまま。
「な・・・ん・・・」
「やはり君には効きにくいか」
 奇怪な空間の中、ざり、と踏みしめられた音が、そこだけ切り取られたようにやけに耳に残る。注意すれば周囲の音が遠いところから聞こえるように感じて。
 そうだ。
 音すらも動いていない。これは。
「この辺一帯を『停滞』させてもらったよ」
 数歩の間をあけて立ち止まり、未だ身を起こせないテッドを見下ろすヒクサクの。
 右手に宿るものが司る能力が。
「・・・『円』・・・ッ・・・!」
 さっきの兵士たちにかけた氷の術が途中で止まったのもこの力。
 そぐわないほどにこりと綺麗に笑い、持ち上げた腕に力を込める。
「そして君には『秩序』を与えよう」
 望ましい状態を保つために。
 ・・・誰のための?
「っそんなの! あんたに都合のいい『秩序』だろう!」
「もちろん」
 睨み上げ叫ぶテッドに、尚もヒクサクは笑いかけた。
「ここは、『ハルモニア』だからね」
 ハルモニアとは紋章。
 そして、ヒクサクそのもの。
「・・・ッ・・・!」
 絶えない笑顔に、本物の喜色が見えてテッドの背に震えが走る。数刻前までは多少変ではあったけれど、ここまでではなかった。
 こんな風に、どこかが壊れているような印象は受けなかったのに。
「なんで・・・っ」
 似ても似つかない、性別すら違う、自分を追いかけ回す魔女の姿とダブる。
 これも紋章の呪いか。
「・・我が、魂に・・・」
 ヒクサクの右手がひたりとテッドの目の前に突き出され、指の隙間から覗く翡翠を、真っ直ぐ逸らさず見つめた。
 たった数文字を言葉に乗せただけで、重く、淀んだ空気が満ちる。
 気付いたヒクサクが、辺りを見渡すように僅かに身を引いた瞬間。
「我が魂に寄り添いし二十七の真なる闇よ・・・!」
 言い放つと同時に、テッドの身体を漆黒の影がまるで護るかのように包み込む。
 円の停滞が効きにくかったのは、テッド自身の魔力の高さもあったが、施された封印が破れかかっていたことが大きい。
 覚えのある気配が強くなり、右手が熱を帯びたような錯覚に陥る。
「来い・・・! ソウルイーター!」
 それを待っていたのだとでも言うように、テッドを囲っていた影は一瞬で飛散し、掲げた手の甲へと導かれるように吸い込まれた。
 全ての黒を収めた直後、ドクン、と全身に響くような胎動が。
「ぁ・あ・・ッ・・・!」
 突如襲われた衝動に、テッドは両膝をついて腕を抱き、背中を丸めて耐える。
 飢餓。
 三年もの間、一切の食事をしていなかった魂喰いは、再び花嫁を手に入れた悦びで暴走し、テッドの影から形を成した人型の何かが、事の次第を見ているヒクサクのすぐ横を通り抜けた。
 その先に、中庭に駆け込んでくる多くの兵。
「ダメ、だ・・・来んな・・・ッ・・・やめろ!」
 ばくりと、実際にはしなかった音が聞こえた気がした。
 魂だけを失くした兵士たちは、何の外傷も抵抗のあともなく、次々とまるで、糸が切れた操り人形のように地に伏していく。
 最後の兵を喰った後、振り返る動作をした何かが、この場にいるテッド以外の一人の存在を認めた。
「・・・そうくるかい」
 相変わらず口元には笑みを浮かべるも、ヒクサクの表情には焦りが見える。
 ゆらゆらと緩慢な動きの人型に少し身を屈めて対峙したとき、それまでとは打って変わった速度で、迷わず直線に影が移動した。
 いつの間にか身体数個分にまで迫ったそれに、余裕の顔を初めて歪める。
「くっ・・・!」
 ざらついた何かが、後ずさった最後の身体のパーツだった左足に纏わりついた。おぞましい感覚が全身を巡る。
 反射的に魔力を高め、影の追跡を弾けば、ヒクサク自身も別の方向へと弾かれた。それでも再び距離を詰めた影の、一部だけを伸ばした部分に触れそうになる。
 避けきれないと唇を噛んだ、とき。
「ソウルイーター!」
 静寂を突き破る声に、円でも止められなかった漆黒の人型が、今までの暴走をなかったかのようにピタリと鎮まった。
 睫毛のすぐ先に広がった影に目を見開いたまま、ヒクサクは眼球だけを動かして声の主を探す。
 いつの間にか立ち上がっていた琥珀の少年が、眉を寄せ拳を作り、けれどしっかりと逸らすことなく異形のそれを見据えて喉を震わせた。
「・・・俺は、ここだ」
 そうしてゆっくりと右手を差し出す、その仕草は。
 まるで、手の甲に口づけをねだるようで。
 場違いも甚だしく、間違っても神聖などとは呼べない存在であるのに。
 テッドを通過し、サラサラと融けるように漆黒が昇華していく様は、不思議な光景だった。

「・・・動けるか」
「・・・残念ながら私は、君と違って典型的な魔法使いでね」
 君に追いついた時点で体力ゲージは半分だよ。
 これだけのやり取りなら、先日や、数刻前と変わりないのに、今はもう、決定的に違ってしまった。戻ることも出来ない。
「面白いと・・・思ったのだけどね」
 知識も力も申し分なかった。自分に対する扱いも。
 例え紋章の意思に操られた世の中だとしても、この出逢いは何かを変えられるかもしれないと。
「・・・あんたのやり方に共感はできない」
 門の一族の話を出した際、テッドの表情が変わったことにヒクサクは気付いていた。
 ハルモニアが門の一族を滅ぼしたのと同じく、その右手に宿す紋章を狙われ、滅びの一途を辿ったのだろう。
「だが、理不尽だとは思わないかい? 連中の手の中で弄ばれる生を。争いに駆り立てさせ、呆気なく死んでいく。何のために紋章があるのか」
 しでかす側で何だが、境遇は理解する。
 ヒクサクとて、過去はそちら側だった。
 だからこそ納得が出来ない。絶対的な強い存在が支配しているような、気持ちの悪い不透明な現状が。
 運命なんて便利な言葉で惑わされるつもりなど毛頭ない。
「・・・・・」
 投げられた言葉に顔を顰めて口を噤む。
 きっと、この国の誰よりも、テッドこそがヒクサクに近い。だから解る。嘆きにも聞こえる独白が。
 それでも。
 何も紡ぐことなく頭をもたげ、瞳を伏せてゆるりと一度だけ首を振った。 
 ヒクサクの台詞に否定はしない。確かに疑問もあるし、思いもある。ただ、肯定もしない。
 解らない、と意味を乗せる。
 壁に体重を預けて立つヒクサクがそれを汲んで、フッと息を吐き出しながら笑みを浮かべた。テッドと同じく視線を落とし、すぐに上げた顔には、昨日までの余裕の表情を見せる。
「君、名前は」
 聞かれてそこで、そう言えば名乗っていなかったと思い出した。
 少しだけ考えて小さくテッド、とだけ口にする。
 どこに行っても、どれだけ年を重ねても、あの故郷から持ち出せた数少ないものを偽るつもりはない。これからも。
「覚えておくよ」
 行くといい、と腕を組んで言われた台詞に僅かに瞠目し、幾度か瞬きをしてから、刹那の微笑を残して身を翻し走っていく。少しの未練もないように振り返りもせず。
 今更到着した兵たちに捜索と追跡の命を取り下げ、代わりに中庭の処理を指示し、ゆっくりとヒクサクは凭れていた壁から背を離した。
 やがて作業に追われる中庭から姿を消し、ここのところ珍しく自分以外の人間がいた執務室まで戻る頃。
 多少くたびれた外套をまとった少年が、その右手に包帯を巻きつけ、短い間でしたけどと頭を下げて宿を後にする。

 ハルモニアは紋章の収集も研究も止めることはない。
 求めるものの最たるものを持つ者たちは、好んで近付こうとはしなかったし、テッドも次にまた同じことが起これば、逃がしてくれるわけはないと確信しているから、二度とハルモニアに現れることはなかった。
 だからあの後、ハルモニアでどんな研究がなされていたかなど知らない。
 知れるはずもないと思っていた。
 けれど。
 かなりの時を経て、テッドは彼の、痛いほどの想いと赦されない罪に逢う。







もしかしてヒクサクは、一番最初の紋章による戦いの星の人なんじゃないのかなと。
でも天魁星ではなくて、なんやかんやあって、ハルモニアを治めるようになったとか。
あ、いつもの妄想です。紋章の能力も当たり前に妄想です。
テッドについては、この時はまだ四人目を喰ってません。
そんな四人目の話を、魂を食われた人で書こうかと思ってましたが、物凄く理想に近いのを発見したので、私の中で完結しました。(笑)
ソウルイーターはテッドにヤンデレだと思っています。(本気)
ところで読んでくださった方は、どの段階でヒクサクだって気が付いただろう。

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月島うらの
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自己紹介:
ただひたすらに、テッドへの愛を叫ぶ。
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